「院長の独り言」年度別

「院長の独り言」を時系列でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

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2018年7月~12月の「院長の独り言」

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カツラ(2018年12月)

今月の札幌癒し写真館でカツラの写真を撮りました。

カツラは漢字で書くとで、日本ではカツラ科カツラ属のカツラの木を指します。カツラは落葉広葉高木で雌雄異株。その木材は建築や囲碁将棋の盤など広く使われています。

ちなみに中国で桂は、同じ字でも違う意味になります。

中日大辞典(大修館書店)によると
①モクセイ(木犀)
②ケイ、トンキンニッケイ(肉桂)
③ゲッケイジュ(月桂樹)
④広西の別称
⑤姓
となります。

東洋医学の本などでと書かれているとたいていは肉桂を指します。

肉桂牡桂とも書かれ、クスノキ科のケイです。

漢方薬として使うときはこの木の幹の皮を使います。

作用は、性味は辛・甘、大熱。帰経は肝・腎・心・脾・胃。で基本的には附子と同じように温める働きが強い生薬です。

ちなみに桂枝はクスノキ科のケイの若い枝またはその樹皮です。

作用は、性味は辛・甘、温。帰経は肺・心・脾・肝・腎・膀胱。で肉桂ほど温める力は強くありませんが、肺にも働き体の表面を温めて発汗させる働きがありカゼの漢方薬などによく使われます。

中国と日本で多くの場合漢字が同じだと意味も同じなのですが、たまに同じ漢字でも意味が異なる場合があります。
それもまた面白いですね。

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染料と漢方薬(2018年11月)

衣服などの布を染めるときに使用される染料には漢方薬として使われるものがたくさんあります。

その一つに紅花があります。
時代劇などでよく見る女性の下着である長襦袢は多くは紅花で染められていました。
紅花は婦人科疾患に良く使われる漢方薬の生薬でもあります。

またウコンは赤ちゃんを包むおくるみの染料としても使われていました。
乳児湿疹になる赤ちゃんは多いですが、ウコンは皮膚炎にも使われる生薬です。

それぞれ病の予防または治療として有効な染料(薬)で染められています。

布に染められた薬(染料)から身体に対して本当に薬効があるのかどうかは私には分かりませんが、昔の人は薬効があると思って使っていたのでしょうし、恐らくは何らかの効能はあったのではないでしょうか。

ちなみにジャパンブルーとして日本における染料の代表とされる藍染の藍も漢方薬の生薬としても使われます。
藍は解毒の働きもあり熱病や毒虫などにも生薬として使われます。
藍染めの服は汗もなどに有効と言われていますし、虫食いなどの害虫予防の効果もあるとされています。

その他にも紫根、黄柏、茜草、山梔子(クチナシ)などの染料が衣服や書物の紙などの染料として使われていますが、そのどれにも薬効があります。

漢方薬の生薬としての薬の働きをする染料にも驚きですが、昔の人は染料で染めるときにも、単に色合いだけで染料を決めているわけではなく、東洋医学的な薬効も考えて染料を決めていたとすると、昔の人の知恵は素晴らしいものだなと改めて思います。

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トウモロコシ(2018年10月)

北海道の秋の味覚の一つにトウモロコシがあります。

今回はトウモロコシの東洋医学的な効能を簡単にですが紹介したいと思います。

トウモロコシはトウキビともいいますが、東洋医学的には玉蜀黍や玉米などといいます。

東洋医学的な分類としては、性味は甘、平、帰経は脾、胃、肝、腎となります。

東洋医学的な効能は、調中開胃、益気寧心、利尿、利胆、止血などとなります。

具体的な症状としては、食欲不振や便秘、高血圧、むくみ、糖尿、胆石、鼻出血などを良くする働きがあります。

トウモロコシは実だけでなく根や葉やヒゲ(めしべの長い柄、日本では南蛮毛という)にも薬効があり、特にトウモロコシのヒゲはお茶や漢方薬にもよく用いられます。

一度に食べ過ぎるのは良くありませんが、継続して食べることによって、上記の症状を良くすることができます。

また、むくみを取ったり血糖値を安定させたり、高血圧にトウモロコシのヒゲ茶を常用するのも一つの方法です。

薬膳は東洋医学の重要な柱の一つです。

人はその食べたものによって作られます。

その何を食べるかという指針の一つとして、東洋医学という物差しを使うのも有用だと思います。

■参考文献:『薬膳』(伍 鋭敏編著、東京書籍)

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この度の胆振東部地震について思うこと(2018年9月)

まず初めに、この度の胆振東部地震により、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。

当院も9月6日未明のこの地震による停電で電話が通じなくなるなどの多少の被害を受けましたが幸いにも7日に電気が復旧し翌日から通常通り開院することができました。

今回の災害で恵みをもたらしてくれると同時に恐ろしい一面を持つ、人知を超えた自然の力をあらためて再認識させられました。

ここ数年異常気象や天災が増えてきています、特に今年は台風や猛暑の被害が全国的にありました。

私も自宅に防災グッズや非常用の食料や水を一応準備しておりましたが、今後もっと本格的に準備をしなければと思いました。

東洋医学を学んでいる鍼灸師として思ったのは、今回の災害の後、ぎっくり腰になったり、自律神経の乱れによる症状が悪化して来られた患者さんがいました。

ぎっくり腰は疲れや冷えなどにより腰回りの筋肉が硬くなっていたところに何らかのきっかけで筋肉を痛めてなるもので、日頃からヨガ、気功、ストレッチなどで筋肉をやわらかくほぐしていることである程度予防できます。 また、自律神経の乱れによる症状はストレスや生活のリズムの乱れなども影響していることが多いので、そのあたりを普段から軽減できるよう注意しておくことも大事だと思います。

もちろん日頃から鍼灸治療を定期的に行っていれば、疲れを取り、ストレスを軽減し、身体全体の筋肉を柔らかくしてくれるものなので予防の効果はあるので可能であれば定期的に鍼灸治療をされることをお勧めします。

一言でいえば養生ということになるのですが、災害の準備として水や食料、懐中電灯などの物だけでなく、身体も大丈夫なように準備をしておくということも大事なのではないかと思いました。

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立秋(2018年8月)

今年の夏は本当に暑いですね。
札幌は8月に入って朝晩は大分涼しくなりましたが、全国的にはまだまだ暑い日が続くようです。

さて、8月7日は立秋でした。
立秋は、「二十四節気の一つ。太陽の黄道が135度の時。暦の上ではこの日から秋になるが、実際には残暑が厳しい時期。」とされています。
立春もそうですが、8月という謂わば暑さ(夏)のピークに立秋があり、2月の寒さの(冬)のピークに立春があるのが子供の頃から不思議でした。
本来暦は人々の生活と自然とを合わせるためにあるのに、実際の自然と一致しないのは変ではないのか?

最近は立春は春が生まれる日、立秋は秋が生まれる日ではないかと考えるようになりました。
陰陽の法則に「陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる」というのがあります。
太極図を思い浮かべると分かりやすいですが、陰が最大の時、陽が最少で、だんだん陽が増えていきだんだん陰が減っていきます。逆もしかりで陽が最大の時、陰が最少で、だんだん陰が増えていきだんだん陽が減っていきます。
同じように夏が最大の時、秋が生まれ、だんだん秋が成長して増えていき、夏が減っていくと昔の人は考えたのかもしれません。

季節はデジタルではないので、その日から急に秋に切り替わるというのは考えてみればおかしな話で、アナログ的にだんだんと、ちょっとずつちょっとずつ変化していくものです。
立秋に秋が生まれ、だんだんと秋が成長して秋らしくなって行く、やがて秋が真っ盛りの時に冬が生まれ、冬の成長に伴い秋は衰退していく。
そう考えると暦と自然とが一致するように思えて納得がいきます。

ちなみに、黄道とは地球から見て太陽が地球を中心に一年かけて運行する経路です。
西洋占星術はこの黄道を十二等分して星座を配置したものです。
話は飛びますが、同じように白道というものがあり、これは月が地球の周りを一年かけて運行する経路です。
この白道を28等分したものが28宿と言われるもので、宿曜術などの占いで使われます。

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『老人必用養草』(香月牛山原著、中村節子翻刻訳注、農文協)(2018年7月)

『老人必用養草』は江戸時代の後世派の医者である香月牛山による養生書です。本書『老人必用養草(ろうじんひつようやしないぐさ)―老いを楽しむ江戸の知恵』は、その江戸の叡智を現代人の参考にと読みやすく活字化し、現代語訳したものです。

江戸時代の養生書としては貝原益軒の『養生訓』が現代では有名ですが、香月牛山はこの『老人必用養草』の他に『婦人寿草』という婦人科の養生の本や、『小児必用育草』という小児の育児書も書いています。

この『老人必用養草』は5巻から成ります。
第1巻は総論で養生の大切さを述べています。
第2巻は飲食について、第3巻は衣服、住居、季節ごとの養生について、第4巻は精神の保養、身体の保養、性欲について第5巻は老年の疾病治療について書かれています。

個人的に面白かったのは、第1巻で炭火の例えで養生の大切さを述べたところです。
炭は品質によって灰になるのが速いのと遅いのとがあるが、速く灰になる品質の悪い炭もいろりのなかで温かい灰をかけて保存すれば長持ちする。
このように人も養生をすればたとえ生まれつき身体が病弱でも身体を長持ちさせることができると説き、40歳代を老化の始まりとして若い頃から元気な人も40歳代から養生に努めた方が良いといっています。
そして第4巻の身体の保養のところでも40歳代からはそれまでとは仕事のやり方を変えるべきだとも述べています。

現代と江戸時代では異なる部分もあるので、この本の内容をすべて無条件には受け取れない部分もありますが、ある程度早い年代から養生に努めた方が良いというのは私も賛成です。

養生は習慣ですので、高齢になってから、「さあ、やろう」と思ってもなかなか難しいです。
運動一つとっても、日頃から運動不足の人はある程度まだ筋肉があるうちに運動する習慣をつけることが大切です。

しかし結局のところ、歳を経ていくとどうしても10代、20代の頃とは違い身体は衰えていきます。
そんななかで、今の自分の身体に合わせて、日々の生活や仕事を行う。
それが香月のいう40歳代からはそれまでとは仕事のやり方を変えるべきだということだと思います。

今の自分の身体と日々の生活を調和させる、それが養生の極意なのではないか、本書を読みながらそんなことを考えました。

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