「院長の独り言」特別編
漢方のかぜ薬について
「橋本七度煎について」という記事の中で、漢方のかぜ薬として麻黄湯(まおうとう)、桂枝湯(けいしとう)、葛根湯(かっこんとう)の名前を挙げましたので、それらについて説明をしたいと思います。
漢方ではカゼの場合でも病の時期やその人の体質によって使われる漢方薬はさまざまです。
かぜによる病の初期の状態を太陽病(たいようびょう)といいますが、葛根湯、麻黄湯、桂枝湯などはこの太陽病のときに使われる漢方薬です。
かぜの初期である太陽病を漢方では大きく二つ、表寒実証(ひょうかんじつしょう)と表寒虚証(ひょうかんきょしょう)に分かれます。
※厳密には太陽病には腑証(ふしょう)というのもあるのですが、ここでは腑証は省略します。
表寒実証について
表寒実証は麻黄湯に代表されるものです。
漢方では人の体を3つに分けて表面近くを表、身体の奥を裏、その間を半表半裏といいます。
かぜは風寒の邪に外から襲われて起こるので病の初期は当然表となります。つまり表寒実証の表は身体の表面に病があることで、寒は風寒の邪による病ということです。
あと実ですが、ここでいう実は表における虚実です。説明はちょっと難しいのですが、表寒実証は風寒の邪とくに寒邪が肌表を襲うことで汗孔を閉塞し無汗となります。
○麻黄湯
麻黄湯は麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、杏仁(きょうにん)、炙甘草(しゃかんぞう)の四つの生薬からなります。
麻黄は辛温解表薬(しんおんげひょうやく)の主薬で発汗により風寒邪を散じます。
桂枝も辛温解表薬で麻黄の働きを助けます。
杏仁は止咳平喘薬(しがいへいぜんやく)でカゼによるセキを止めます。
炙甘草は補気薬(ほきやく)で諸薬を調和させます。
表寒虚証について
表寒虚証は桂枝湯に代表されるものです。
表寒虚証の表と寒については表寒実証と全く同じで、虚という所だけが異なります。
この表寒虚証の場合は風寒の邪とくに風邪が肌表を襲い汗孔を開泄して汗が出ます。この点が大きく異なります。
○桂枝湯
桂枝湯は桂枝(けいし)、白勺(びゃくしゃく)、炙甘草(しゃかんぞう)、生姜(しょうきょう)、大棗(だいそう)の五つからなります。
桂枝は辛温解表薬(しんおんげひょうやく)で主薬です。風寒邪を発散して除きます。
白勺は養血薬(ようけつやく)で、汗の外泄を止め失われた栄陰(水分)を補います。
炙甘草は補気薬(ほきやく)で諸薬を調和させます。
生姜は辛温解表薬で桂枝の働きを補助します。
大棗は補気薬で白勺を助けます。
このようにかぜの初期の漢方薬は大きく分けると麻黄湯と桂枝湯のグループに分かれます。
葛根湯について
さて有名な葛根湯はどちらに分かれるのでしょうか?
答えを先に言うと表寒実証つまり麻黄湯証のグループになります。
でもこれが面白いところで、葛根湯は桂枝湯から出来ているんです。
葛根湯は葛根、麻黄、桂枝、生姜、炙甘草、白勺、大棗からなります。葛根と麻黄を除けば桂枝湯と同じですよね。
葛根湯が使われる場合というのは風寒邪が肌表を襲うのですが、表の太陽の部分(肌表)ともうちょっと深い陽明の部分(肌肉)にまたがって風寒邪が入っているのです。
そのため肌肉が濡養されず筋肉が強張り肩こりになります。葛根が陽明の肌肉の部分の邪を取り除きます。また無汗なので麻黄で解表発汗させます。
このようなことから、葛根湯はカゼ以外の肩こりにも使われたりしますし、桂枝湯のカゼにもある程度効きます。
落語で「葛根湯医者」というのがありますが、葛根湯は初期であればある程度どんなカゼにも効くし幅広く使えるように出来ているんですね。
実際に漢方薬を服用するときは体質などのこともあるので医者や薬剤師の先生に相談されたほうが良いです。
私たち鍼灸師は当然漢方薬を使うことは出来ませんが、同じような働きをするツボを使うことによって漢方薬と同じような治療効果を出すことが出来ます。
カゼがなかなか治りづらい方などは、鍼灸師に一度相談されたらいかがでしょうか。
葛根湯医者
最後に、落語の小噺を一つ。
患者A「先生、頭が痛いんですが。」
先生「ああ、頭痛だな。葛根湯をお上がり。」
患者B「先生、お腹が痛いんですが。」
先生「ああ、腹痛だな。葛根湯をお上がり。」
と、足が痛かろうと、目が悪かろうと何でも葛根湯。
先生「そちらの方。」
付き添い「いえ、私は付き添いで来ただけで・・・・・・」
先生「まあいいから、葛根湯をお上がり。」
お後が、よろしいようで。
「カゼ」の関連ページ
- 「橋本七度煎について」
- 「傷寒(カゼ)について」
- 「「カゼ」について」(2005年12月)