「院長の独り言」特別編
東洋医学のエビデンスについて(2005年12月)
はじめに
昨今、エビデンスやEBMという言葉がよく聞かれるようになりました。医療業界における一つの流れでありますが、一般の方においても耳にすることがこれから増えてくると思いますので、簡単な説明と私見を述べたいと思います。
EBM(エビデンス)とは
エビデンスつまりEBMは、正式にはEvidence-Based Medicine(エビデンス ベイスド メディスン)といい、訳すると「根拠に基づく医療」となり、個々の患者にとって現在ある最良の根拠を明らかに理解したうえで慎重に用いるということです。
エビデンスは以下五つのステップから成ります。
- 目の前の患者さんにどんな問題があるかを見極め
- その問題を解決すると思われる情報を探し
- 得られた情報が本当に正しいものかどうかを批判的に吟味して
- その情報を目の前の患者さんにどう使っていくかを考え
- これまでのすべての流れが適切であったかどうかを評価する
という5つのステップで進めていきます。
つまり、EBMはこのようなステップを通して患者にとって最良の治療法を探し続ける行為といえます。
EBMに対する誤解
EBMの誤解の一つにEBMは科学的根拠に基づいたものだからエビデンスが最優先されるとし、それを患者さんに押し付けるものです。仮に研究の統計結果に有意差があったとしても、個々の臨床の場では選択する価値が無いことがあります。臨床の場では医療者の経験と個々の患者さんの状態から慎重に決定を下さなくてはなりません。
鍼灸師のEBMに対する誤解
鍼灸師にとってのEBMの誤解の一つに、鍼灸治療は科学的根拠が無くてはならないというのがあります。鍼灸師のなかでも科学派と東洋医学派がありますが、科学派は問題ないとして、東洋医学は科学(西洋医学)とはものの見方が異なっていますので単純に東洋医学を西洋医学の枠組みのなかに押し込めると東洋医学のダイナミズムが失われることになります。それに東洋医学の弁証論治という行為そのものが、東洋医学的診断である証に基づいて治療をし、その結果からまた証を考えるというフィードバックを行い、より患者にとって最良の治療を探し続けているということで、EBM本来の趣旨に沿っていると思います。
臨床は Art & Science
臨床は Art & Science であるという言葉は西洋医学においてよく聞かれますが、東洋医学はよりArtの部分が突出しているのでしょう。
江戸時代の漢方医和田東郭(わだとうかく)は「彼を以って我となす」といいましたが、本当に良い治療は患者と治療者がある種一体となるような芸術的なものなのでしょう。名曲を単に音の周波数で表すことが意味のあることなのか、心・精神性というものを重視する東洋医学の一面があります。
もちろんこれも一つの側面であり純粋に身体の仕組みを捉えている側面もあります。
つまり東洋医学はものすごく幅の広い医学なのだと思います。
エビデンスのまとめ
このなかで述べたかったのは、安易な科学化によって東洋医学という幅の広く、ダイナミズムな医学を枠にはめてこわしてはいけないということです。
またEBMという患者にとって最良の治療を探し続ける行為は西洋医学、東洋医学と枠組みは違っても行われているということです。
東洋医学という素晴らしいものを皆さんと共に分かち合いたいと思っています。