「院長の独り言」年度別

「院長の独り言」を時系列でご紹介しています。鍼灸・東洋医学に対してもっと身近に感じていただこうと、一般の方にわかりやすく鍼灸・東洋医学にまつわるトピックを中心にお届けします。民間薬草や健康食材にまつわる話、鍼灸・東洋医学・健康に関する一般書などもあわせてご紹介いたします。

「院長の独り言」年度別

2023年7月~12月の「院長の独り言」

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皮膚刺激と筋肉刺激(2023年12月)

鍼の治療は大きく分けて、皮膚刺激と筋肉刺激に分かれると思います。

分かりやすく説明すると、鍼による皮膚刺激とは、鍼による皮膚への刺激が自律神経を介して内臓や免疫などの働きを改善するというものです。

鍼による筋肉刺激とは、筋肉の強張りに鍼をすることによって筋肉の動きや血流を改善するというものです。

症状によってこの二つを上手く使い分けれれば、より早く症状の改善が見込まれると思います。

私は古典を研究しているわけではないので、深く古典を研究されている先生方に叱られるかもしれませんが、『難経』の七十一の難に書かれている、衛気と栄気(営血)の刺し方の使い分けは、皮膚刺激と筋肉刺激のことを言っているのではないかと個人的に思っています。

そうであれば、全く土台の異なる東洋医学と西洋医学が少しつながって面白いです。

また、『難経』の二十二の難の是動病と所生病の違い、気と血、経脈と臓腑、外邪と内傷などいろいろな説がありますが、別の視点があるかもしれません。

そんなふうに古典を読んでみるのも面白いと思います。

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折衷主義(2023年11月)

折衷主義とは、クライアントの問題に応じて最も適した方法をとる立場で、既存の各理論から活用できるものは何でも使う立場のことです。

私も患者さんの症状によっては他の理論も使うので実際は折衷主義の立場をとっているのですが、折衷主義に対する反論もあります。

一つの理論を学ぶのにも5年10年とかかるのに、たくさんの理論をマスターできるのか?

折衷主義とは器用貧乏ではないか、何でも浅く知って深くないので効果を上げれないのではないか?

それに対する反論として

理論をマスターすることの意味として各理論のすべてを知っている必要はなく目の前のクライアントに必要な分を知っていればよい。

また各理論にはそれぞれ得意分野とあまり得意でない分野がある。

ということがあると思います。

ただ、理論自体は大切なもので、現在の患者さんの状態に対して説明、解釈し、未来の予測を立て、治療の手段を決めるものです。

また臨床家タイプや研究者タイプなど立場によっても理論にたいする姿勢が違ってくると思います。

卑近な例ですが、町医者と大学病院で研究している医者のように、研究者は理論をきちんと構築することが仕事で、良い理論が構築できればそれがゆくゆくは全体の治療の質を上げることにつながります。

町医者は目の前の患者さんの為に最も有効そうな手段を選択していくのだと思います。

いづれにしても理論は大事なものだと思います。

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『画像ではわからないしつこい腰の痛みを治す本』(井須豊彦監修、講談社)(2023年10月)

本書『画像ではわからないしつこい腰の痛みを治す本』は釧路労災病院脳神経外科部長である井須豊彦医師が一般の患者さん向けに書かれた腰痛の本です。

非常にわかりやすく書かれており、私たち鍼灸師も患者さんへの説明の参考になります。

いろんなことが書かれていますが、私が特に興味深く思ったのが、患者さんの腰痛に対する認識に対する啓蒙の部分です。

以下要約すると、

〇「原因が分からないはずがない」との患者さんの思い込み

高度に発達した現代医学でも実は腰痛の八割はちゃんとした原因が分からいことが多く、画像検査で見つかる異常が必ずしも痛みの原因とは限らない。

上殿皮神経障害、梨状筋症候群、仙腸関節障害など末梢神経による腰の痛みは画像では分りづらく、また心因性の腰痛もある。

〇「すぐに痛みをとって欲しい、とれるはずだ」との患者さんの思い込み

テレビなどのマスコミが盛んに神の手、スーパードクターと喧伝していますが、手術にはどんな名医であっても100%は無く、必ずリスクがある。

手術自体は成功してもしびれなどが残ることもあり、安易に手術を選択するのではなく、手術は慎重に考えたうえで選択する。

〇「症状がすべて無くなる以外治療の効果を認められない」との患者さんの思い込み

慢性の症状の原因は一つとは限らず、筋肉の強張りなど様々な要因が関係し、心の状態によっても症状の感じ方が異なる。

痛いからといって必要以上に体を動かさないと筋肉が弱まり、かえって痛みが出やすくなるという悪循環になる。 少々の痛みがあっても、無理せず出来る範囲で体を動かす。

一般の患者さんが読んで参考になることがたくさん書かれている良書です、興味のある方は読まれてみてはと思います。

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老荘思想(2023年9月)

『老子』とその後の時代の『荘子』、その二つの思想を合わせて老荘思想といいます。

東洋思想の中でも私の好きなものの一つなのですが、実は日本文化に大きな影響を与えているのです。

老荘思想の日本への伝わりは一つは漢学(中国学)として。

特に江戸時代は官学として儒教が取り入れられました。

なので漢学の中心は儒教ですが、儒教以外も伝わっておりその中の一つとして老荘思想も伝わっています。

もう一つの流れは仏教を通して。

仏教はインドで釈迦によて生まれた宗教ですが、龍樹によって空を説いた大乗仏教が生まれ、その他にも唯識派や土俗の宗教を取り込んだ密教などが生まれます。

大乗仏教が中国に伝わるわけですが、そこで中国の思想とくに老荘思想と融合して新たな仏教、中国仏教が生まれます。

それが禅宗と浄土宗です。

禅宗は中国で大きく花が開きそれが日本にも伝わり、日本文化にも多大な影響を与えます。

浄土宗は中国よりも日本で大きく発展しました。

自然法爾は老荘思想とかなり近しい概念といえると思います。

老荘思想を説明するのは難しいのですが、一言でいうと、「無為自然」。

無為自然とは人間のさかしらな知恵を捨てて、大いなる自然の法則に沿った生き方をしようというものです。

ことさらに人間のさかしらな知恵を否定する禅宗、阿弥陀仏にすべてをゆだねる浄土宗、一見すると全く反対の宗派に思えますが、両方とも老荘思想の影響を受けているというのは面白いですね。

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周易と老子(2023年8月)

私は鍼灸を業としているものですが、ライフワークとして東洋思想を学んでいます。

東洋思想は東洋医学のバックボーンでもありますので、東洋医学を学ぶ者はいづれ学ぶ必要があるのですが、鍼灸を抜きにしても面白いものです。

周易にしても老子にしても色々解釈の余地があり、個人的には私的に色々解釈をして楽しんでいます。

周易は面白いもので、儒教の重要な経典であり、儒教とは相反する老荘思想においても大事な経典となっています。

周易はもともとは占いですがそれを哲学まで高めたのが儒教になります。

あくまで私的な解釈ですが、生き方として周易を考えるならば、二つの道を示しているように思います。

一つは能動的に理性的に教え導き命令する父なる乾の道、もう一つは受動的に共感的に育て癒す母なる坤の道。

なので地天泰という上のものがへりくだって下のものと交流するある意味慈愛に満ちた卦があるかとおもえば、火雷噬ゴウのように邪魔なものは断固として排除する(獄を用いるに利し)非常に強権的な卦もあります。

この背反する二つの道を時と場合によって使い分け、全体としての調和を実現するのが周易の基本的な考え方だと思います。

老子は一言でいうと無為自然、人間のさかしらな考えを捨てて自然に沿った生き方をしようというものです。

あくまで私的な解釈ですが、先ほどの周易との関連でいえば、母なる坤の道こそが唯一の無為自然の道と老子は述べているように思います。

老子では儒教的なものを否定しますが、それは学ぶこと、規範を作ること、命令すること、いづれも父なる乾の道です。

老子が理想とするのは女性、水、赤子、小国寡民など柔弱なるもので、一見すると弱いものばかりですが、それがしなやかな強さを持ち、剛強なものに勝つといいます。

周易の母なる坤の道と老子の無為自然の道は全く同じとは言えないかもしれませんが、かなり近いものだと思います。

老子と周易、一見すると関連性が無いように思えても視点を変えてみればつながりが見えてくる、面白いですね。

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温故知新(2023年7月)

温故知新とは「昔のことを研究して新しい知識や道理を知ること」ですが、伝統の知恵には宝物がたくさんあると思います。

もちろん鰯の頭も信心からではないですが、無批判に何でも信じると危険なこともあります。

宝物とゴミをきちんと区別する目を持たなくてはならないと思います。

TCH(Tooth Contacting Habit(歯列接触癖))という上下の歯を"持続的に" 接触させる癖があります。

上下の歯が接触する程度の力でも口を閉じる筋肉は働いてしまうため顎関節への負担が増え様々な不調を引き起こす原因になります。

解消法としては「歯を離す」と書いた付箋をテレビなどに貼り、歯を離す習慣付けを行うというものです。

その他に舌先を上の歯と上顎の間につけるというのがあります。

実はこれ舌砥上顎といって気功にもあります。

気功では督脈と任脈をつなげて気の流れをよくすると説明されます。

舌砥上顎のほかにも、立身中正虚領頂頸など重要なものが気功にあります。

鎌田 實先生の著作などで書かれているかかと落とし体操八段錦という気功体操のなかにあります。

背後七顛百病消というのものですが、腎を高めて万病を治すとされていますが、腎は東洋医学的には骨と関係がありますので骨粗しょう症予防に東洋医学的にも効果的だと思います。

伝統の知識を改めて見直すことも大事だと思います。

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